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はじめに|転職した年の“年末調整”、ちょっとややこしいけれど大丈夫
秋の風が冷たくなり、年の瀬の気配が近づいてくると、職場でも少しずつ「年末調整」の話題が出始めます。
しかし今年、あなたが転職をしたり、派遣先を変えたりしたなら──
「自分の年末調整って、どうすればいいの?」と感じるのではないでしょうか。
年末調整は、1年間の所得に対して支払う税金を、正しく清算するための大切な手続きです。
ただし、勤務先がひとつではない年は、書類のやり取りや提出先が増える分、少し手間がかかります。
「会社がやってくれる」と思っていたら、実は提出が必要な書類があり、
「気づいたら締め切りが過ぎていた…」というケースも珍しくありません。
この記事では、人材会社として多くの転職者・派遣スタッフの年末手続きをサポートしてきたキャリテ(エーティーエス)が、
現場で培った知見をもとに「転職した年にやるべき年末調整の手順」をやさしく解説します。
制度のポイントだけでなく、「なぜ必要なのか」「どこでつまずきやすいのか」にも触れながら、
安心して準備を進められるようナビゲートしていきます。
第1章|そもそも「年末調整」とは? 基本のしくみをおさらい
まずは、年末調整の基本を押さえましょう。
これは、1年間に支払った所得税を「実際の収入額」に合わせて正確に計算し直す手続きです。
1年間、毎月のお給料からは「源泉徴収税額」として仮の所得税が天引きされています。
年末調整では、その合計額と本来支払うべき税金を比較し、払いすぎていれば還付、足りなければ徴収されます。
つまり、年末調整は会社が従業員の代わりに行う税金の最終調整。
サラリーマンや派遣社員が自分で確定申告をしなくても済むのは、この制度があるおかげです。
出典:国税庁「年末調整がよくわかるページ」
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxtopic/nencho/)
ただし、転職した年は要注意
転職をすると、「どの会社が年末調整を行うか」が明確でなくなることがあります。
たとえば次のようなケースです。
- 途中で退職して、年末時点で無職になった
- 年内に転職したが、前職と現職どちらにも給与がある
- 派遣会社を移籍した、または複数の派遣元から給与をもらった
このような場合、年末調整を行うのは「その年の12月31日に在籍している会社」が原則です。
ただし、前職分の収入も含めて税額を計算する必要があるため、現職に前職の「源泉徴収票」を提出する必要があります。
この源泉徴収票を提出しないと、
現職の会社は前職分の収入を把握できず、正しい税額計算ができません。
「なんだか難しそう…」と思うかもしれませんが、要するにこういうことです。
前職の分を含めて、現職に“まとめてもらう”のが年末調整。
第2章|転職・派遣で複数の勤務先がある人の流れを解説
転職を経験した方や、派遣で複数の就業先を持つ方が一番困るのが、
「どの会社にどの書類を出せばいいの?」という点です。
ここでは、状況別にわかりやすく手順を整理します。

◆ ケース①:1回転職した(前職→現職)
もっとも一般的なケースです。
基本的には「現職(転職先)」が年末調整を行います。
手順:
1.前職から源泉徴収票をもらう退職時にもらっていない場合は、前職の人事担当に連絡。郵送で再発行してもらいましょう。
2.現職に源泉徴収票を提出
これにより、現職が1年分の給与合計額で税金を計算できます。
3.控除証明書(保険料・扶養など)をまとめて提出
10月〜11月に届く証明書類をまとめて渡すのがベストです。
出典:国税庁「No.2660 年末調整のしかた」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2025/01.htm
◆ ケース②:複数の派遣会社で働いた
派遣スタッフの方は、「派遣元(登録している会社)」が年末調整を行います。
派遣先の企業ではなく、給与を支払っている派遣会社側に書類を提出します。
もし、年内に派遣元を変更した場合は、前の派遣会社からも源泉徴収票をもらい、
最終的に在籍している派遣会社へ提出しましょう。
◆ ケース③:年内に退職して、再就職していない
この場合は、会社での年末調整は行われません。
そのため、翌年の2月16日〜3月15日に確定申告を行う必要があります。
還付申告(払いすぎた税金を取り戻す手続き)も可能です。
出典:国税庁「確定申告特集」※令和6年度のものとなります。
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/)
第3章|派遣で転職した方のための「年末調整」手続きの流れ
派遣で働く方にとって、年末調整は少し分かりづらいテーマかもしれません。
なぜなら、派遣という働き方では、「派遣先」ではなく「派遣元(=登録している会社)」が雇用主にあたるためです。
つまり、あなたがどの企業で就業していても、実際に給与を支払っている会社=派遣元が年末調整を行います。
この仕組みを知っておくだけで、書類提出の混乱を防ぐことができます。
◆ ステップ1:まずは“今年関わった会社”を整理する
派遣として働いている方の中には、1年の間に派遣先が変わったり、別の派遣会社に登録して就業していたりする方も少なくありません。
そうした場合、どの会社で給与を受け取っていたかを最初に確認しましょう。
例
・1〜5月:A社(派遣元①)から給与
・6〜12月:B社(派遣元②)から給与
このように2社以上の派遣元で給与をもらっていた場合、
年末調整を行うのは「12月31日時点で在籍している派遣会社(派遣元)」です。
他の派遣会社での給与分は、「源泉徴収票」をB社に提出して合算してもらうか、
B社で調整できない場合は、翌年の確定申告で清算します。
出典:国税庁「年末調整がよくわかるページ」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index.htm
◆ ステップ2:前の派遣元から「源泉徴収票」をもらう
転職者・派遣スタッフにとって、最も重要なのがこの「源泉徴収票」です。
これは、その会社で支払われた給与額と源泉徴収税額(仮払いした税金)を記載した公式書類。
もし退職時にもらっていなければ、前の派遣会社に「源泉徴収票の再発行をお願いしたい」と連絡しましょう。
郵送対応してもらえるケースがほとんどです。
ポイント
・派遣元が変わった年は、すべての派遣会社分を集める
・紛失しても再発行可能。遠慮せず依頼を
・現職(派遣元)への提出期限は11月中〜12月上旬が目安
出典:国税庁「No.2502 源泉徴収票について」◆ ステップ3:控除証明書や申告書を整理する
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2502.htm
年末調整では、1年間の「支出」や「家族構成」に応じた控除が適用されます。
このときに必要なのが、以下のような書類です。
|
書類名 |
内容 |
受け取り時期 |
備考 |
|
生命保険料控除証明書 |
生命・個人年金・医療保険などの支払額を証明 |
10〜11月 |
保険会社から郵送 |
|
地震保険料控除証明書 |
住宅などにかけた地震保険の証明 |
10〜11月 |
保険会社から郵送 |
|
扶養控除等申告書 |
扶養家族・配偶者の有無を申告 |
派遣元より配布 |
年初に提出済みでも、内容変更があれば再提出 |
|
社会保険料控除証明書 |
国民年金など自分で支払った場合に使用 |
任意 |
市区町村・年金機構から取得可 |
書類は届いた順に1つのファイルや封筒にまとめておきましょう。
あとから「あの紙どこだっけ?」となりがちですが、整理しておけば安心です。
出典:国税庁「年末調整のための各種控除証明書の提出について」◆ ステップ4:派遣元の案内に沿って提出
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/faq/gensen/001.htm
派遣会社では、毎年10月〜11月にかけて「年末調整に関する案内」や「提出書類一式」が送付されます。
Webフォームでの提出や郵送対応など、会社によって方法が異なります。
期日を過ぎると年末調整が行えず、確定申告が必要になるため、
案内が届いたら早めに開封し、内容を確認しましょう。
第4章|2025年度(令和7年分)の年末調整に関わる改正ポイント
2025年度の税制改正では、「働き方の多様化」を前提とした所得控除の見直しが行われました。
派遣という柔軟な働き方をする方にとっても、影響のある部分があります。
- 基礎控除が拡大(最大95万円)
従来の一律48万円から、所得132万円以下の場合は95万円まで控除されるようになりました。
収入が少ない人ほど控除額が大きくなる、段階的な仕組みです。
・給与所得控除の下限額が拡大出典:国税庁『令和7年度 税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A』
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025005-051.pdf
年収190万円以下の方の給与所得控除の最低保障額が、55万円から65万円に引き上げられました。
パート・派遣・初年度就労者など、比較的年収が低い層への配慮といえます。
・扶養・配偶者:48万円 → 58万円
・勤労学生:75万円 → 85万円
これにより、家族を支える派遣社員や、学びながら働く方にとっても負担が軽減されます。
第5章|もし年末調整に間に合わなかったら
派遣では、提出期限が短い・郵送が遅れたなど、思わぬタイミングで提出が間に合わないこともあります。
そんなときは、慌てなくて大丈夫。翌年の確定申告で還付を受けることができます。
◆ 確定申告で必要なもの
・前職・現職すべての源泉徴収票・控除証明書(生命保険など)
・マイナンバーカードまたは通知カード
・印鑑、還付先口座情報
申告期間は翌年2月16日〜3月15日。
最寄りの税務署または「e-Tax」でオンライン申請が可能です。
出典:国税庁「確定申告特集」※令和6年度のものとなります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/
第6章|まとめ - 担当者のリアルエピソード
実際に多くの派遣スタッフの方とお話していると、
「年末調整って、なんとなく会社が全部やってくれるものだと思ってた」という声をよく聞きます。
でも、転職した年は少しだけ“自分で動く年”。
書類をまとめて送るだけで、税金が正しく整い、戻ってくるお金もある──そう考えると、前向きになれます。
「今年は書類が多くて大変そう…」
年末調整は、“書類の山”ではなく、“自分の1年を整理する時間”です。
転職した年こそ、手続きが煩雑になりがちですが、それはあなたがこの1年でしっかり働き抜いた証拠でもあります。
最後に
制度を知れば、年末調整は怖くありません。
書類をそろえ、少しずつ整えるだけで、安心して新しい年を迎えられます。
キャリテは、派遣スタッフ・転職者の皆さまが安心して次の一歩を踏み出せるよう、
これからも働く人の味方として、寄り添い続けます。
監修:監修:キャリテ編集部【株式会社エーティーエス】
株式会社エーティーエスが運営する本サイト「キャリテ」では、みなさまの「キャリア」「働く」を応援する記事を掲載しています。みなさまのキャリアアップ、より良い「働く」のために、ぜひ記事の内容を参考にしてみてください。
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