個人事業主として事業を始める際には、税務署に開業届を提出します。しかし、引っ越しなどで開業届に記入した住所などの事項が変更になることもあるでしょう。この場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
この記事では、開業届の内容が変更になった際にどのような手続きが必要になるのか、手続きが必要な際に提出する書類の書き方や、提出方法などについて説明しています。この記事を読んで手続きの方法を把握しておけば、各種手続きをスムーズに進められるでしょう。
また、手続きが不要な場合もわかることで、時間や労力を無駄にすることなく手続きできます。
個人事業主の方でこれから引っ越しの予定がある方や、将来の引っ越しに備えて住所変更の手続きについて知っておきたい方は、この記事をチェックしてみてください。
目次
開業届の内容が変更になったら届出は必要?
個人事業を開始した時に提出する開業届には、氏名や納税地、職業、屋号、開業日など、さまざまな事項を記入します。
開業届を提出した後でこれらの事項に変更があった場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。まず、届出が必要・不要な場合を紹介しますので、覚えておきましょう。
届出が必要なケース
開業届に記載する項目で変更の届出が必要になるのは、基本的に納税地が変更になった時のみです。
住所を納税地としている場合は引っ越しで住所変更があった時、事業所の所在地を納税地としている場合は事業所を移転した時に届出が必要になります。
出典:No.2091 個人事業者の納税地等に異動があった場合の届出関係|国税庁
届出が不要なケース
開業届に記載されている項目のうち、屋号や業種、氏名など納税地以外に変更があった場合には、特に届出をする必要はありません。
これらに変更があった場合は、次の確定申告時の申告書に、変更後の屋号や業種などを記載しましょう。
納税地とは何か
納税地とは確定申告書の提出先のことです。確定申告書は、提出時の納税地を所轄する税務署に提出することになっています。
一般的には、住所地(生活の本拠地)が納税地となります。国内に住所がない場合は、居所(生活の本拠地とは言えないが、相当期間継続して居住している場所)が納税地です。
個人事業主が引っ越しをしたら必ず住所変更の手続きが必要?
引っ越しによる住所変更の際には、さまざまな手続きが必要です。特に個人事業主の場合は、税務署に対しても手続きが必要となる場合があります。
ここでは、どのような場合に、税務署への住所変更の手続きが必要なのかを説明していきます。
手続きが必要なケース
事業関係の住所変更の手続きが必要になるのは、納税地が変わる場合です。
事業所を設けず自宅で開業している場合、通常は自宅の住所が納税地となります。この場合では、自宅を引っ越すと納税地が変わるため、手続きが必要になります。
また、事務所を開設してその所在地を納税地としている場合は、自宅はそのままでも事務所を移転する際に手続きが必要です。
出典:No.2091 個人事業者の納税地等に異動があった場合の届出関係|国税庁
手続きが不要なケース
引っ越しで納税地が変わらない場合は、事業関係の住所変更手続きは不要です。
この場合は、自宅とは別に開設した事業所を納税地としており、自宅のみ移転して事業所はそのままという場合が当てはまります。
個人事業主の住所変更で提出する書類
ここでは、個人事業主が住所変更の際に提出する書類について紹介します。
移転先やそのほかの条件によって、提出するべき書類が変わってくるため、自分のケースではどの書類の提出が必要かをよくチェックしておきましょう。
所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書
「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」は、引っ越しなどで納税地に異動があった場合や、納税地を変更する場合に提出する書類です。
納税地の異動があった際にはなるべく早く、異動前の納税地を所轄する税務署に提出しましょう。
出典:[手続名]所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出手続|国税庁
個人事業の開業・廃業等届出書
事業を開始した時に提出した「個人事業の開業届出・廃業届出書」(開業届)は、事業所の移転があった場合にも提出することになっています。
事業所を移転したら、1か月以内に税務署に提出しましょう。提出先は「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」と同じく、移転前の税務署です。
預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書
「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」は、税金を口座引き落としで納税する「振替納税」を利用する際に、税務署か金融機関へ提出する書類です。
振替納税を利用中に納税地が変わり、その結果、納税地を管轄する税務署が変更になった場合には、新しく管轄となった税務署に改めて提出する必要があります。
なお、先述の「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」に、納税地の変更後も引き続き振替納税を利用する旨を記載して提出した場合は「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」の再提出は不要です。
出典:[手続名] 申告所得税及び復興特別所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の振替納税手続による納付|国税庁
労働保険の名称・所在地等変更届
個人事業主であっても、従業員を1人以上雇用していれば労働保険(雇用保険・労災保険)に加入します。
労働保険に加入している場合、事業主の住所が変わったり事業所を移転したりした際には、その翌日から数えて10日以内に「労働保険名称・所在地等変更届」を、移転後の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する必要があるため、準備しておきましょう。
社会保険関係の変更届出書
個人事業主が健康保険や厚生年金に加入していて、事業主や事業所に関連する変更があれば、日本年金機構に届け出る必要があります。
事業主の住所が変更となった場合は「健康保険・厚生年金保険事業所関係変更(訂正)届」を提出します。変更の事実があってから5日以内に、書類を事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口か、郵送で事務センターに提出しましょう。電子申請でも提出できます。
なお、事業所を移転する場合は「適用事業所所名称/所在地変更(訂正)届」も、あわせて提出します。移転元と移転先で管轄する年金事務所が同一の場合と異なる場合は、提出する書類の書式が違う点に注意しましょう。
出典:健康保険・厚生年金保険事業所関係変更(訂正)届|日本年金機構(PDF)
個人事業主の住所変更で提出不要な書類
個人事業主が住所変更する際にはさまざまな書類の提出が必要ですが、一方で提出する必要のない書類もあります。
以下に挙げる書類は、提出の必要があると勘違いしやすいため、注意しておきましょう。
青色申告承認申請書の再提出
個人事業者が青色申告をする際には、税務署に「青色申告承認申請書」を提出します。
「青色申告承認申請書」には、記載した内容が変わった際の届出の規定は特にないため、住所変更などがあっても再提出する必要はありません。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
事業で従業員を雇っていて、給与などの支払事務を取り扱う事業所を開設・移転・廃止した時には、税務署に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」を提出する必要があります。
ただし、個人事業主は、これらの場合には「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出することになっているため、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」の提出は不要です。
出典:[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁
「所得税・消費税の納税地異動に関する届出書」の作成方法
ここでは、引っ越しなどで納税地が変更になった場合に提出する「所得税・消費税の納税地異動に関する申出書」の記入方法や、提出の方法について説明します。
提出の際には下記を参考に、間違いがないかチェックしましょう。
申出書に記入する項目
申出の上部には、申出先の税務署名と、自分の納税地、氏名、個人番号(マイナンバー)、職業、屋号などを書く欄があります。これらの欄には、異動前の納税地についての内容を書きましょう。
必要項目以外に、何か書いておくべきことがあれば「5 その他参考事項」に書いておきましょう。
出典:所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書|国税庁(PDF)
申出書の提出先
「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」の提出先は、異動前の納税地を所轄する税務署です。異動後の納税地を所轄する税務署ではない点に、注意しましょう。
現在の納税地を所轄する税務署や、その所在地が分からない場合は、国税庁のサイトで確認できます。
申出書の提出方法は?
「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」は、提出先となる税務署に持参か郵送で提出します。また、e-Taxからも提出できます。
なお、個人番号(マイナンバー)を記載した書類を提出する際には、本人確認書類の提示か、その写しの添付が必要です。
本人確認書類としては、マイナンバーカードが使えます。マイナンバーカードを持っていない場合は、マイナンバーを確認できる書類(住民票など)と身元を確認できる書類(運転免許証など)がそれぞれ必要です。
いつまでに提出する?
「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」の提出期限は、厳密には決められていませんが、納税地の異動があった場合は遅滞なく提出するよう定められています。
そのため、引っ越しが完了したら、できるだけ速やかに提出しましょう。
出典:[手続名]所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出手続|国税庁
「個人事業の開業・廃業等届出書」の作成方法
事業用の事務所や事業所を新設したり移転したりした場合には、「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を再提出する必要があります。
ここでは、事務所などを移転し「個人事業の開業・廃業等届出書」を作成・提出する場合に、注意したいポイントなどについて説明していきます。
住所変更の場合に記入する項目
住所変更する際に「個人事業の開業・廃業等届出書」も作成する場合、特に「届出の区分」と「事業所等を新増設、移転、廃止した場合」の欄に書き忘れがないようにしましょう。
「届出の区分」は「事務所・事業所の(新設・増設・移転・廃止)」のうち「移転」を◯で囲みます。
「事業所等を新増設、移転、廃止した場合」は「新増設、移転後の所在地」に新しい事務所などの所在地を「移転・廃止前の所在地」にこれまでの事務所などの所在地を記入しましょう。
また「所得の種類」の「事業(農業)所得」を◯で囲み、「開業や廃業、事務所、事業所の新増設等のあった日」の欄に事務所など移転した日を書きましょう。
納税地異動届と一緒に提出する
提出期限が厳密に決められていない「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」とは異なり、「個人事業の開業・廃業等届出書」は事業所などの移転の事実があった日から1か月以内と、具体的な提出期限が定められています。
両方を一緒に提出することで、書類を1つずつ提出する手間を省くことができるためおすすめです。
個人事業主は納税地の特例が適用できる
先ほど、納税地は一般的に住所地と紹介しましたが、国内の住所のほかに居所がある場合、住所地ではなく居所を納税地にすることが可能です。
また、国内に住所か居所があり、さらに事業所などがある場合には、住所や居所の代わりに事業所の所在地を納税地にできます。これらを「納税地の特例」と言います。
納税地の特例の適用を受ける場合は、本来の納税地を所轄する税務署に「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」を提出する必要があるため、把握しておきましょう。
個人事業主が海外に引っ越すとどうなる?
個人事業主の引っ越し先が海外である場合、「居住者」になるか「非居住者」になるかによって、手続きが変わってきます。
ここでは、個人事業主が海外に引っ越す際の手続きについて、上記の2つの定義を紹介していきます。
非居住者になる場合
所得税法では、国内に住所がなく、かつ国内に現在まで引き続き居所を持っている期間が1年未満の人を「非居住者」と言います。つまり、海外に生活の拠点を移して1年以上生活する場合は、非居住者と見なされます。
非居住者は、日本国内で発生した所得にのみ課税されるため、海外で事業による収入を得たとしても、その収入は日本での課税対象となりません。
そのため、個人事業主が海外に引っ越し、海外で事業を継続する場合は、国内における事業の廃業手続きをしておく必要があります。
廃業の手続きとしてはまず、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。「届出の区分」の「廃業」を◯で囲み、廃業の理由や廃業日などを記入しましょう。
また、青色申告をしていた場合は「青色申告の取りやめ届出書」を、消費税の課税事業者となっていた場合は「事業廃止届出書」をあわせて提出しましょう。
日本に住所を残す場合
海外に引っ越しても、国内に住所を残しておく場合は「居住者」と見なされます。
居住者であれば、原則として国内だけでなく、海外で得た所得にも課税されます。この場合は国内の住所地が納税地となるため、その納税地を所轄する税務署に納税しましょう。
個人事業主の引っ越し費用は経費になる?
引っ越し費用は、事業に関連するものであれば経費として計上できます。引っ越し業者に支払う代金のほか、粗大ごみなどの廃棄費用、前の家主に支払う原状回復費や、新しい事業所を借りる際の礼金なども経費として計上可能です。
ただし、新しい事業所を借りる際の敷金については、退去する時に返還されるお金のため、経費にはできません。
自宅を事業所としても使っている場合は、新しい自宅や引っ越し荷物などをどのくらいの割合で事業に使うかを大まかに算出したうえで、事業にかかる分だけを経費として計上します(家事按分)。
なお、引っ越し費用を帳簿に記入する際には、まとめて「引っ越し費用」として仕分けするのではなく、それぞれの費用に応じた勘定科目で記入しましょう。
開業届の住所変更手続きについて知っておこう
個人事業主が引っ越しをして、開業届に記載した納税地が変更になる場合は、住所変更の手続きが必要です。
また、住所変更の手続きでは「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出するほか、開業届の再提出が求められる場合があります。さらに、労働保険に加入している場合など、税務署以外にも住所変更の手続きが必要な場合もあるでしょう。
この記事を参考に、自分のケースではどのような手続きが必要になるのかを把握しておき、引っ越しの際にはスムーズに手続きを終えられるようにしましょう。
初回公開日:2024年4月1日
監修:キャリテ編集部【株式会社エーティーエス】
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